Research

研究内容

有機電子アクセプター材料

メタノインデンフラーレン(MIF)

 高い開放端電圧を得るためにπ電子系を縮小した56π電子系フラーレンが用いられるが,フラーレン以外のボリュームの増大による電子移動度の低下,およびそれによる短絡電流密度,フィルファクタの低下が問題になることが多い.付加基の1つに最小の炭素付加基であるメチレン基(ジヒドロメタノ基)を用いることにより,高い開放端電圧,短絡電流密度,フィルファクタを与える56π電子系フラーレン,メタノインデンフラーレン C60(CH2)Indを開発した.P3HTとアクセプター材料の混合バルクヘテロ接合膜において,C60(CH2)Indは参照化合物であるC60(Ind)2 (ICBA) より高い電子移動度を示した.これはジヒドロメタノ基が立体的に小さいため,密なパッキングが実現でき,フラーレンのπ電子共役系どうしの接触が多くなるからだと考えられる.このようにして開発したメタノインデンフラーレン(MIF)は,実用化に最も近い電子ドナーであるポリ(3-ヘキシルチオフェン,P3HT)を用いたバルクヘテロ接合有機薄膜太陽電池において,世界最高水準の変換効率である6.4%を与えた(特開2012-094829).

ref. Adv. Mater. 2013, 25, 6266.

mix-PCBM

 [60]PCBMと[70]PCBMの混合物(約85:15)であるmix-PCBMは,[60]PCBMに比べ,コスト的に優位であり,少し高い変換効率を与え,高い素子安定性を与える.P3HTとmix-PCBMを用いた混合バルクヘテロ接合素子において,P3HT:[60]PCBM素子に比べ,高い短絡電流密度,やや低いフィルファクタを与えた.開放端電圧は変わらなかった.トータルとして,変換効率はやや向上した.短絡電流密度が向上した理由として,[60]PCBMと[70]PCBMが混合されていることで電子アクセプターの結晶性が低下し,より小さな凝集体を形成し,電荷分離界面の面積が増大し,エキシトン利用効率が高まったことが考えられる.その反面,電荷輸送パスが減少し,フィルファクタが低下したと考えられる.また,[70]PCBMは[60]PCBMよりも高い吸光係数をもつため,光捕集効率も高まったと考えられる.150℃の熱アニール実験において,P3HT:[60]PCBM素子ではみられたPCBMの凝集が,P3HT:mix-PCBM素子ではみられなかった.このようなモルフォロジ的な安定性が,素子の安定性につながったものと考察できる.

ref. Appl. Phys. Lett. 2013, 103, 073306.

シリルメチルフラーレン(SIMEF)

 有機薄膜太陽電池において標準的に用いられるフラーレン電子アクセプターとしてPCBMとよばれる材料がある.PCBMは,フラーレンの二重結合の一つにカルベンが付加した1,2-付加型の58π電子共役系である.新たに開発したフラーレン誘導体であるSIMEF(サイメフ)は,1,4-付加型の58π電子共役系をもつ.1,4-付加型の58π共役系では,1,2-付加型の58π共役系よりもπ共役系の広がりがやや小さくなる.そのためフラーレン部位の電子親和力が小さくなり,LUMO準位が上昇する.SIMEFのLUMO準位は,PCBMのそれよりも0.05から0.1 eV高い.このことにより,SIMEFはPCBMよりも高い開放電圧を与える.

SIMEFの結晶充填構造は,ケイ素原子上の置換基を変えることにより変えられる.2つのケイ素原子上にフェニル基をもつSIMEFは,フラーレン部位を一列に並べて結晶化する.これは一種の相分離で,フラーレン部位どうし,シリルメチル基どうしがそれぞれ集合することにより,フラーレン部位がハニカム状に配列し,その空孔にシリルメチル基が収まる構造をとる.フラーレン部位が並ぶため電荷輸送に有利な構造と言えるが,実際,SIMEFの電子移動度はPCBMのそれを上回る.

また,重要なことに,SIMEFは熱により結晶化する特性をもつ.アモルファス状固体を150℃に加熱すると,X線回折を与える結晶性固体に相転移する.示差走査熱量測定において,150℃に結晶化に基づく発熱のピークが観測される.このような熱結晶化により,アモルファス薄膜を与えやすい塗布プロセス後に固体中で結晶化が行えることにより電荷輸送パスの形成が行えるだけでなく,結晶性ドナー分子との混合状態からの熱による共結晶化およびそれによるドナー/アクセプター相分離構造の制御が可能になる.

ref. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 15429; J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 16048.

ジヒドロメタノフラーレン誘導体

 さらなるπ共役系の縮小を行ってLUMO準位を上げて高い開放電圧を得たいとき,問題となるのが開放電圧と短絡電流のトレードオフの問題である.すなわちπ共役系を縮小するために導入した付加基が増えてくると,それがフラーレンπ共役系どうしのパッキングを阻害し,電荷輸送効率が低下する.開放電圧は向上したが電流が低下してエネルギー変換効率が変わらないということにしばしば直面する.電流を下げずに高い電圧を得るために,最小の炭素付加基であるメチレン基を用いてπ共役系を縮小した種々の56π系ジヒドロメタノフラーレン誘導体を合成している.これらの誘導体を用いた有機薄膜太陽電池において,高いLUMO準位に基づく0.85 V程度の高い開放電圧が得られるが,そのとき短絡電流やフィルファクタはほとんど低下しない.

ref. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 8086.

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