カーボンナノチューブを「電子」を運ぶ素材に変換 ペロブスカイト太陽電池の”弱点”克服へ新展開

 

【ポイント】

・有機リン化合物によるn型化注1)の実現 : リン化合物の電子供与により、単層カーボンナノチューブ注2)(SWCNT)を安定的にn型化。フェルミ準位注3)上昇と近赤外吸収変化で電子注入を実証。
・フラーレン誘導体(PCBM)による界面改善 : 絶縁性残さを除去し、ペロブスカイト層との接触を改善。電子移動度が2倍以上に向上し、変換効率8.03%を達成。
・優れた耐久性と疎水性による安定化 : ドーピング注4)による撥水性向上で、無封止でも500時間後に効率50%を保持。金属電極を超える安定性を実現。

 

名古屋大学大学院工学研究科および未来社会創造機構マテリアルイノベーション研究所の松尾 豊 教授と、アーマド シャリフ ヒダヤ 博士後期課程学生を中心とする研究グループは、京都工芸繊維大学材料化学系の野々口 斐之 准教授、日本女子大学理学部の村岡 梓 教授、株式会社デンソーとの共同研究により、軽くて丈夫な炭素材料「単層カーボンナノチューブ(以下SWCNT)」を“電子を運ぶn型材料”へと変換する新しい化学技術を開発しました。これにより、ペロブスカイト太陽電池(PSC)注5)において、従来の金属電極(銀など)を用いずに発電できる新しい電極を実現しました。
研究グループは、リンを含む有機化合物を使ってSWCNTに電子を注入し、導電性を保ったままn型化することに成功しました。さらに、フラーレン誘導体を用いた後処理を組み合わせることで、電子がよりスムーズに流れるようになり、電極の安定性も大幅に向上しました。この新しい方法により、太陽電池の発電効率は従来の5.1%から8.03%へと大きく向上しています。
分析の結果、リン化合物がSWCNTに電子を供与することで、電子エネルギー準位(フェルミ準位)が上昇し、実際に電子伝導が生じていることが確認されました。これは、単なる表面変化ではなく、材料内部の電子状態が変化していることを示しています。また、ドーピングによってSWCNT表面が水をはじく性質(疎水性)を持つようになり、湿気による劣化を抑えることにも成功しました。その結果、封止処理を行わなくても500時間後に初期性能の50%以上を維持する高い耐久性を示しました。
今回の成果は、資源問題や環境負荷の低減にも貢献し、持続可能なエネルギー社会を支える新たな技術として期待されています。本研究成果は、英国王立化学会「Journal of Materials Chemistry A」オンライン版に2025年10月31日付で掲載されました。

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)p型、n型:
半導体における電子伝導に関わるキャリアの種類が2種類あり、電子伝導のものをn型、正孔(ホール)伝導のものをp型という。
注2)単層カーボンナノチューブ(SWCNT):
炭素原子が六角形格子を形成して筒状になった構造をもち、優れた電気伝導性、強度、熱伝導性をもつ。電子デバイスやエネルギー材料、バイオ医療など幅広い分野で応用が期待されている。
注3)フェルミ準位:
電子がエネルギー準位を占有する確率が50%になるエネルギーの位置を指す概念。半導体や金属での電子の分布や電気的特性を決める基準となる。
注4)ドーピング、ドーパント:
外部分子や原子を導入して材料の電子的性質を制御する技術。導入される物質をドーパントという。
注5)ペロブスカイト太陽電池:
ペロブスカイト構造の有機無機ハイブリッド材料を発電層に用いた太陽電池。高効率かつ低コストで製造可能なため、従来のシリコン太陽電池に代わる次世代の太陽電池として注目されている。

 

【論文情報】

論文タイトル: “n-Type Doped SWCNT Film using Organophosphorus Compound as Cathode in Inverted Perovskite Solar Cells”
著者:Achmad Syarif Hidayat, Naoki Ueoka, Mina Shimamoto, Miftakhul Huda, Hisayoshi Oshima, Yoshimasa Hijikata, Azusa Muraoka, Yoshiyuki Nonoguchi, and Yutaka Matsuo
掲載誌:Journal of Materials Chemistry A(英国王立化学会)
オンライン版に掲載済み
DOI: 10.1039/D5TA06786C

URL: https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2025/ta/d5ta06786c

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